企画 | ナノ

The 未来


風が吹いた。

窓の外から、さとうきびが風に揺られる音が聞こえる。これはさとうきびの風だ。

最近畑をやりだしたミカちゃんが試しにって、大量に植えたさとうきびが金色の波を作っていた。

たまにはこうして、ゆっくり外を眺めるのもいいかもしれない。前は、特にCGSに来てから風景をのんびり楽しむ時間なんてなかったから。金色の波がこんなにきれいだったなんて気が付かなかった。ビスケットのおばあちゃんがやってるっていうトウモロコシ畑も、こんなにきれいだったんだろうか?

じっと外を見ていると、オルガがやって来た。厳しい顔つきでドアをゆっくりと閉、眉間にしわを寄せて、私を見る。


「大丈夫か」

「ごめんね……ドジっちゃって。オルガも、わざわざ火星に帰ってきてくれるなんて」


心配してくれているオルガをなだめるように、私はにっこり笑った。


「こんなことになったら、誰でも速攻で帰ってくる」

「仕事を優先してもよかったのに。団長さんは忙しいでしょう」

「出張先の仕事は粗方終わった。あとはあいつらでも十分やれる。少しはお前の心配もさせろ。熱や吐き気なんかはねえか? 飯も、アトラが粥なんかを作ってくれてるんだろ?」


私は思わず吹き出しそうになった。きっと万全の体調だったら笑い転げてるかもしれない。だって、こんなに過保護なオルガ初めて見るんだもん。今にも泣きそうな顔してさ。

仕事のことだってそうだ。今までのオルガだったら仕事を放りだして帰って来るようなことしなかったもん。


「……7年」


私は、金色に波打つさとうきびを見た。

体が、思うように動かない。

こんなことになるなら、前からもっといろんな物を注意深く見るべきだったな。

今になってわかる。世界は、戦いだけじゃないんだって、もっと優しい世界もあるんだって。


「私が、この世界に来てから、7年」


私は、またオルガを見た。


「色々、あったね。お嬢さんの付き添いで、地球に行ったり」


それから長い長い時間が経過した。あっという間だったかもしれないけど、でも、長い時間だった。その間に、オルガもすっかり変わってしまった。度重なる仕事で体はもっとたくましくなったし、雰囲気もなんというか、名瀬さんに負けないくらいリーダーの風格を出している。

……私も変わったのかな? 見た目はちょっとは変わったけど、中身はどうなのかな?


「私、きっと、ここで死んでいく」


気が付くとそんな言葉が漏れていた。

もう、元の世界には戻らない。ううん、もう戻れない。

それもいいのかもしれない。そう思えるようになったのはここにいるオルガや鉄華団のみんなのおかげだ。

もしここで死んでも、悔いはない。

でも、オルガはすっごく泣きそうな顔をした。


「死なねえよな」

「わかんない。でも、まだ死にたく……ないな」

「殺さねえ」


オルガが、疲れてあまり動かせない私の手をぎゅっと握った。


「殺さねえ、絶対、お前を守る」

「ふふ……頼もしいなあ」


その手の温かさが、私の顔の筋肉を溶かしていくかのように、自然と笑みがこぼれた。


「ねえ…………パパ」

「……っ!」

「スイさーん!!」


オルガの目に、じわっと涙が溜まった瞬間に、元ちびっこたちがものすごい勢いでドアを開いた。

タカキにライドにヤマギだけじゃない、なんとおやっさんまでいる。



「あら、みんな! また来たの?」

「お前ら仕事はどうしたんだよ!?」

「ちょっとだけ抜け出して来たんだよ! スイまた腹がでっかくなったな!」


困惑するオルガをよそに、ライドが興奮した様子で私のポッコリ膨らんだおなかに顔を近づけて凝視した。


「もう、お腹蹴ったりとかするんですか?」

「するする! こんなに元気だから、男の子かなあ?」

「ええー!? 俺女の子がよかった」

「まだ決まったワケじゃないだろ!」


残念がるライドに、タカキが突っ込み(?)を入れた。こういうところは、なんていうか、昔と全然変わってないよね。


「それにしても、オルガとスイの子供かあ……なんつーか、孫が産まれてくるような気分だぜ」

「おやっさんまで……」

「おやっさん涙目になってる!」

「気持ち悪っ!」

「気持ち悪ぃとか言うな!」


軍手で目を拭うおやっさんをどやすみんなを見て、私は笑った。おやっさんは全く変わんないんだもんなあ。


「でも、この子が産まれてきたらみんながお兄ちゃんになるんだもんね。頼もしいなあ」

「はい! 俺らが責任もって育てますよ!」


タカキたちは、一斉に私に向かってうなづいた。そのたくましい顔と言ったら、もう。

オルガに目をやると、オルガは安心したような、誇らしいような顔で、タカキたちを見ていた。私に気付くと、泣きそうな顔でにっかり歯を見せて笑った。

オルガの気持ちもわかる気がした。きっとオルガは、ようやく肩の荷が下りたんだ。自分がいなくても、鉄華団はやっていけるだろうって確信が、今持てたんだと思う。

確かにあのときはただ我武者羅に、やみくもに突っ走ってただけだったもん。オルガだっていっぱいいっぱいだったんだろう。

でも、私もオルガと同じ気持ちだ。このさとうきび畑の金色の波のように、私たちの、鉄華団の未来はきっと明るいと思う。


そうだ、私たちの未来は、幸せに包まれているに違いない。


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